ICL(眼内コンタクトレンズ)は、角膜を削らずに視力を大幅に向上させることができる治療法として、近年注目を集めています。しかし、眼内にレンズを挿入する外科手術である以上、得られるメリットの裏には必ず知っておくべきリスクやデメリットが存在します。事前によい面ばかりを見ていると、思わぬギャップに術後後悔してしまうことにも繋がりかねません。この記事では、眼科専門医の視点から、ICLのデメリットや注意すべきポイントをわかりやすく解説します。

ICL手術で後悔しないために知っておくべきこと

ICLは非常に満足度の高い手術として知られていますが、「こんなはずではなかった」と後悔する声が一部で上がることも事実です。その後悔の原因の多くは、手術そのものの失敗というよりも、事前に医師からの説明を十分に理解していなかったり、術後の見え方や生活の制限について適切なイメージを持てていなかったりすることに起因します。ICLを検討する際は、手術の特性や術後に生じる一時的な変化、さらには将来的なリスクを総合的に理解することが、納得のいく決断への第一歩となります。

ICLで後悔に繋がりやすい9つのデメリット【医師解説】

ICL手術を決定する前に把握しておくべき、9つの主なデメリットやリスクについて解説します。これらを正確に把握し、自分にとって許容できるものであるかを判断することが重要です。

1. 費用が高額で経済的負担が大きい

ICL手術は公的医療保険の対象外となる自由診療であるため、治療費の全額が自己負担となります。一般的に、両眼の手術費用は40万円から70万円前後が相場となっており、レーシックなどの他の視力矯正法と比較しても初期費用が高額です。また、度数が極めて強い場合や乱視用のレンズを使用する場合には、さらに追加費用が発生するケースもあります。予算を立てる際は、手術代金だけでなく、事前検査や術後の定期検診、処方される目薬などの追加費用が含まれているかをしっかりと確認する必要があります。

2. ハロー・グレアなど術後の「見え方」に違和感が出る

術後、夜間に光の周囲に光の輪が見える「ハロー」現象や、街灯などの強い光がぎらぎらと眩しく散乱して見える「グレア」現象を経験することがあります。これは、ICLレンズの中心に配置された極小の穴やレンズの構造が光を反射することで生じるものです。ほとんどの場合、数週間から数ヶ月が経過するうちに脳がその見え方に順応し、気にならなくなっていきます。しかし、夜間に車の運転を頻繁に行う方や、光に対して非常に敏感な方は、この変化が生活のストレスとなる可能性があるため、事前の考慮が必要です。

3. 感染症や合併症のリスクがゼロではない

ICLは目の中に直接レンズを挿入する眼内手術です。そのため、角膜を薄く切開する際に、ごく稀に細菌が目の中に侵入して感染症を引き起こすリスクがあります。また、手術後の炎症、一時的な眼圧上昇、あるいは初期段階での合併症のリスクもゼロではありません。このような重篤な合併症が発生する確率は非常に低いですが、万が一感染症が発生した場合は、速やかに抗生物質や消炎剤を用いた適切な治療を行う必要があり、場合によっては一時的にレンズを取り出す判断を迫られることもあります。

4. レンズの度数ズレ・サイズ不適合で再手術になる可能性

術前にどれほど精密な検査を行っても、実際にレンズを挿入した後に度数のズレが生じたり、眼のサイズとレンズの大きさが完全に合わなかったりするケースが稀にあります。レンズが眼に対して小さすぎると、眼の中でレンズが回転して乱視用の軸がズレてしまったり、水晶体と接触して白内障を引き起こすリスクが高まります。逆に、レンズが大きすぎると虹彩が押し上げられ、目の中の房水の流れが妨げられて高眼圧や緑内障の原因となることがあります。これらの不適合が発覚した場合は、レンズの位置を修正したり、適切なサイズのレンズへと入れ替えるための再手術が必要になります。

5. 将来、白内障手術などでレンズを取り出す必要がある

ICLは半永久的に使用可能なレンズですが、将来的に加齢によって白内障を発症した場合、あるいは他の眼疾患の治療が必要になった場合には、挿入したICLを取り出す必要があります。白内障の手術は、濁ってしまった自身の水晶体を取り除き、新しい眼内レンズを挿入する治療です。この際、ICLが挿入されたままだと手術が行えないため、まずはICLを抜去してから本来の白内障手術へと進むステップを踏むことになります。将来的に追加の手術が必要になることをあらかじめ想定しておく必要があります。

6. 角膜内皮細胞が減少するリスクがある

角膜の最も内側にある「角膜内皮細胞」は、角膜の透明性を保つために非常に重要な働きをしています。この細胞は一度減少すると、人間の体内で再生することはありません。ICL手術中の器具の操作や、術後に目の中でレンズが角膜の内側にわずかに干渉することなどにより、この内皮細胞が減少してしまうリスクが存在します。そのため、角膜内皮細胞の数が一定の基準値(通常は1平方ミリメートルあたり2,000個未満)を下回っている方は、そもそも手術を受けることができません。術後も定期的な検診によって、細胞の数に異常な減少がないかを監視することが推奨されます。

7. すぐに手術を受けられないことがある

ICLは精密なオーダーメイド治療です。手術を希望してクリニックを受診しても、すぐに手術を行えるわけではありません。正確な目のデータを計測するため、コンタクトレンズの装用を数日から最大3週間ほど中止して検査に臨む必要があります。さらに、患者個々の視力や眼の形状に適合するレンズの在庫が国内にない場合は、海外のメーカーへ特注して輸入することになるため、レンズの到着までに数ヶ月の待機期間が発生することがあります。

8. 老眼は予防・治療できない

ICLは近視や乱視のピントを合わせる技術であり、加齢に伴って誰もが直面するピント調節力の低下、いわゆる「老眼」を予防・治療することはできません。30代後半以降の方がICLによって遠くがよく見えるように視力を矯正した場合、40代以降になると手元の文字やスマートフォンが見えづらくなるという老眼特有の症状を実感しやすくなります。その場合は、読書時などに必要に応じて老眼鏡を併用する生活へと移行していく必要があります。

9. 手術への心理的負担と術後の生活制限

ICLは点眼麻酔による局所麻酔で行われ、痛み自体はほとんど抑えられますが、手術中は意識がある状態で目の前に光や器具が見えるため、患者にとっての心理的な不安や負担は少なくありません。また、術後は切開した傷口が完全に塞がるまで、感染症を防ぐための生活制限が設けられます。数日から1週間ほどは洗顔や洗髪、メイクが制限され、激しい運動やサウナなどの利用も一定期間控える必要があります。仕事やプライベートのスケジュール調整を慎重に行うことが求められます。

デメリットだけじゃない!ICLのメリットも理解しよう

多くのリスクやデメリットを挙げましたが、ICLにはそれらを大きく上回る多くの魅力的なメリットがあります。偏りのない正しい判断を下すために、メリットについても確認しましょう。

角膜を削らない安全性と可逆性

ICLの最大のメリットは、レーシックとは違って「角膜を削らない」という点にあります。目の表面をレーザーで削って変形させるレーシックは元の状態に戻すことができませんが、ICLは目の中にレンズを挿入するだけなので、万が一将来的にトラブルが生じたり、視力が著しく変化したりした場合には、レンズを取り出して手術前の状態に戻すことが可能です。この「可逆性」は、将来の選択肢を狭めない大きな安心材料となります。

強度近視や乱視にも対応できる適応範囲の広さ

レーシックでは角膜を多く削らなければならないため適応外とされてしまうような「強度近視」や「強度の乱視」、または元々の角膜が薄い方であっても、ICLであれば手術が可能です。角膜の厚みや形状に依存することなく、非常に幅広い視力の患者に対して矯正の選択肢となり得ます。

ドライアイになりにくく、長期的に視力が安定しやすい

角膜の神経を大きく切断しないため、術後にドライアイが悪化するリスクが極めて低いです。また、削った角膜が自己治癒力で変化することによる「近視の逆戻り」現象がほとんど起こらず、長期間にわたってクリアで鮮明な視力を維持しやすいことも、ICL手術の大きな強みです。

日々のメンテナンス不要で快適な裸眼生活

一度手術を受ければ、毎朝のコンタクトレンズの着脱や面倒な洗浄作業、レンズ代のランニングコストから完全に解放されます。旅行や出張、スポーツ、また災害時の避難時などでも、視力に関する不安や準備が不要になり、生活の質が飛躍的に向上します。また、レンズ自体に紫外線カット機能が備わっているため、日常的に目の健康を守る効果もあります。

【重要】ICLで後悔しないためのクリニック選び5つのポイント

ICLで後悔のない選択をするためには、どこのクリニックで、どの医師から治療を受けるかが極めて重要になります。以下の5つのポイントを基準に、慎重にクリニックを選びましょう。

ICL認定医が在籍し、手術実績が豊富か

ICLは高度な技術を要する手術であるため、開発元であるスター・サージカル社からの認定を受けた「ICL認定医」のみが執刀を許されています。クリニックを調べる際は、在籍している医師が認定医であることはもちろん、これまでに執刀してきた手術実績や症例数が十分に豊富であるかを確認してください。経験豊富な医師ほど、個々の目の形状に応じた最適なレンズ選定のノウハウを持っています。

事前検査が精密で、リスク説明を十分に行うか

目の形や奥行き、角膜の状態を把握するためには、徹底した精密検査が必要です。検査機器が充実しており、時間をかけて多角的な検査を実施してくれるクリニックを選びましょう。また、都合のよいメリットばかりを強調するのではなく、ハロー・グレアや再手術の可能性、感染症リスクなどについて、誠実かつ具体的に説明をしてくれる医師は信頼に値します。

費用体系が明確で、追加料金の有無がはっきりしているか

一見安価に見える基本料金の中に、何が含まれているかを事前に見極めることが大切です。事前検査代、レンズ代、手術基本料金、さらには術後の目薬代や定期検診費用、万が一のサイズ交換や度数調整のための再手術保証が料金内に含まれているかを確認し、後から想定外の追加費用が発生しない明確な料金体系のクリニックを選んでください。

術後のフォローアップ体制や保証制度が整っているか

ICL手術は術後のケアが非常に重要です。術後翌日から数ヶ月にわたり、複数回の定期検診がスケジュールされます。万が一のトラブルや違和感が生じた際に、迅速に連絡・相談ができる窓口があるか、またレンズの入れ替えや取り出しが必要になった場合の保証制度がどのくらいの期間、どのような条件で適用されるかを書面などで事前にしっかりと確認しましょう。

医師とのカウンセリングで納得できるまで相談できるか

最も重要なのは、患者自身が抱える不安や疑問に対して、担当医がどれだけ親身になって向き合ってくれるかという点です。目の特徴や職業、スポーツなどのライフスタイルをふまえ、本当にICLが適しているのか、レーシックなどの他の治療法と比較してどのような優位性があるのかを、十分に納得いくまで説明してくれるクリニックを選ぶことが大切です。

ICLのデメリットに関するよくある質問(Q&A)

手術を検討する上で多くの人が疑問に感じるポイントを、Q&A形式で詳しく解説します。

Q. ICL手術で失明する可能性はありますか?

極めて稀ではありますが、術後のケアを怠るなどして眼内感染症を併発し、適切な治療を受けずに放置して最重症化した場合、失明に至る可能性はゼロではありません。しかし、現代の高度な衛生管理基準下での手術において、実際の失明例は極めて稀です。医師の指導に従って術後の点眼と清潔の保持をしっかりと行っていれば、過度に恐れる必要はありません。

Q. ICLのレンズは一生ものですか?寿命はありますか?

ICLレンズに使用されている「コラマー」と呼ばれる素材は、生体適合性に非常に優れており、目の中で劣化したり変質したりすることはありません。そのため、レンズ自体に寿命はなく、半永久的に使用することが可能です。ただし、加齢によって白内障などが進行した場合には、その治療のために取り出す必要があります。

Q. ICLとレーシック、どちらがいいのでしょうか?

どちらが優れているかは一概に言えず、目の状態によって異なります。極度な近視の方や角膜が薄い方、ドライアイが強い方にはICLが向いています。一方、近視がそれほど強くなく、角膜の厚みがあり、初期コストを抑えて安全に受けたい場合はレーシックが適しているケースもあります。精密検査を受け、どちらの適性が高いかを専門医に診断してもらうのが賢明です。

Q. 手術は痛いですか?時間はどのくらいかかりますか?

手術前に点眼麻酔(目薬の麻酔)を十分に行うため、手術中に鋭い痛みを感じることはほぼありません。目を開ける器具の圧迫感や、水で洗浄される際の冷たさなどを感じる程度です。手術時間そのものは、両眼合わせてもおよそ30分前後で終了し、入院の必要のない日帰り手術となります。

まとめ:ICLのデメリットを正しく理解し、後悔のない選択を

ICLは、メガネやコンタクトレンズの煩わしさから解放され、裸眼でクリアな世界を取り戻すための選択肢となる治療法です。一方で、高額な費用や術後のハロー・グレア、稀な合併症のリスクといったデメリットが伴うことも十分に理解しておかなければなりません。後悔のない素晴らしい未来を手に入れるためにも、信頼できる専門医と十分に相談し、リスクとメリットを天秤にかけながら最適な決断を下してください。

本記事は一般的な情報の提供を目的としています。詳しい診療内容・費用に関しては当サイトのページをご参照ください

解説医師

院長・眼科専門医

秦 誠一郎

専門分野

水晶体・網膜・硝子体手術・特殊コンタクトレンズ

略歴

平成2年3月:東邦大学卒業
平成2年5月:慶應義塾大学医学部眼科学教室入局
平成7年8月:眼科専門医取得
平成23年12月:スカイビル眼科医院院長